1960年代R&B/Soul

1960年代ロックで紹介したこのリストですが、

 WikipediaRolling Stone's 500 Greatest Songs of All Time - Wikipedia)によると、約40%が1960年代の曲、約30%が1970年代の曲だそうです。このリストは、業界関係者(有名ミュージシャンや音楽評論家など)172人に対して行われた大規模アンケートが元になっているんですが、年齢的に偏りが出てしまったんでしょうね。新しい音楽をチェックするには不向きですが、60〜70年代の音楽を振り返る場合は非常に有用なリストと言えそうです。

 

というわけで、R&B/Soulはあまり詳しくないのでやらないつもりだったのですが、このリストを基に「1960年代R&B/Soul編」もやってみようと思います。「ローリングストーン誌が選ぶ偉大なアーティスト100人」に加えて、「ローリングストーン誌が選ぶ偉大な歌手100人」とチャート順位もチェックして、選曲基準としてみました。

それでは、全20曲+α です。

  1. Ben E. King - Stand By Me (1961)

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    1975年にジョン・レノンがカバー、1986年に映画「スタンド・バイ・ミー」の主題歌としてリバイバルヒットしたのでご存知の方も多いでしょう。超有名かつ名曲なわけですが、「500 Greatest Songs of All Time – Rolling Stone」ではこの順位で、これから紹介する曲のちょうど真ん中ぐらい(これより上位の曲が10曲ある)というのが、この頃のR&B/Soulの奥深さを示していると思います。

     

  2. Little Eva - The Loco-Motion (1962)

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    こちらも有名な曲で、1974年にGrand Funk Railroad、1988年にKylie Minogue によってカバーされ、前者が全米No.1、後者が全米No.3となっています。日本でも2004年のORANGE RANGEによるオマージュ「ロコローション」(カバー曲という扱いになったようですが)で、有名なフレーズが使われていました。

     

  3. The Ronnets - Be My Baby (1963)

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    1960〜70年代に活躍した名プロデューサー Phil Spectorのプロデュース曲。Phil Spectorは60年代の音楽シーンにおいて非常に影響力のある仕事をしており、「プロデュース」という裏方の仕事がメインだったのに100 Greatest Artists – Rolling Stone #64 にも選ばれています。多分、彼の仕事で一番有名なものはビートルズのアルバム『Let It Be』のプロデュースでしょう。彼が作り出す音楽は「Wall of Sound」と呼ばれていましたが、その特徴は(Classic Tracks: The Ronettes 'Be My Baby'より)

    Spector applied massive amounts of echo to multiple instruments and fused the individual components into his unified 'Wall of Sound': a brilliant, seamless amalgamation of guitars, bass, keyboards, drums and percussion with woodwind, brass and string orchestrations

    (複数の楽器に大量のエコーを加え、それらを「Wall of Sound=ギター、ベース、キーボード、ドラムやパーカッション(※従来のバンド編成)と、木管楽器金管楽器、弦楽器(※オーケストラの楽器編成)の鮮やかで滑らかな合成物」へと融合した)

    というものです。

     

  4. The Crystals - Da Doo Ron Ron (1963)

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    こちらも Phil Spector プロデュース作品。この曲だけ web版「500 Greatest Songs」にないんですが、オリジナルの2004年版で114位だった(2010年の改訂版で外れた)ので入れさせてもらいました。Phil Spector は、ソングライター&ギタリストでもありましたが、ソングライターとしてはThe Teddy Bears - To Know Him Is To Love Him (1958) - YouTube(The Teddy Bears は Phil Spectorがギタリストとして所属)、ギタリストとしては The Drifters - On Broadway (1962) - YouTube のソロ(ただし、Phil Spectorはこの曲の製作には加わっていない)が有名です。

     

  5. The Tempations - My Girl (1964)

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    60年代を風靡した「モータウン・サウンド」の代表的なバラード。これも数多のカバーがあり、映画やドラマの挿入歌などにもよく使われているので、知らない人はいないと思います。作曲は Smokey Robinsonで、The Temptationsの曲は彼の手によるものが多いです。

     

  6. Four Tops - I Can't Help Myself (Sugar Pie Honey Bunch) (1965)

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    モータウンサウンド」は、Holland-Dozier-Hollandによる楽曲群が有名で、一般的にはこちらのイメージではないでしょうか。代表曲としては「恋はあせらず」(The Supremes - You Can't Hurry Love (YouTube)、※邦題は名訳ですね)が一番わかりやすいと思うんですが、The Supremes は「1960年代歌謡曲/ポップ」で1曲紹介しているので、ここでは Four Tops に登場してもらいました。確か「アリー my LoveNHK版のエンディング(吹き替えの声優や翻訳者の紹介)で流れていた曲の一つだったと思うんですが、違ったかな?

     

  7. James Brown - I Got You (I Feel Good) (1965)

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    順位を見てもらえばわかると思いますが、「偉大なアーティスト」「偉大な歌手」ともトップ10入りの超大物。日本語版wikipedia では通称「ファンクの帝王」、英語版wikipedia だと「Godfather of Soul」ですが、「ファンク」を作った人なので「ファンクの始祖」というのが正解でしょう(英語版では「A progenitor of funk music」という記述があります)。超大物なので、私もベスト盤で有名曲を一通り聞いてはいたものの、若い頃のパフォーマンスを見るのは実はこれが初めてでした。今更ながらにビックリですよ。

     

  8. Sly & The Family Stone - Dance to the Music (1967)

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    ビデオを見てもらえばわかりますが、このバンドは黒人と白人、そして、男女の混成バンドです。当時の時代状況とこのビデオでのパフォーマンスから考えても、これは意図的なもので、バンドの思想の現れでもあったと思います。バンドの思想性ということだと、こちらの曲および歌詞の方がわかりやすいかもしれません。タイトルの「Everyday People」は「ありふれた人」みたいな意味です。

    Sly & The Family Stone - Everyday People (1968)

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    この曲に限らず、他の曲についても、気に入ったものの歌詞や当時の時代背景、アーティストの歴史などを調べてみると面白いかもしれません(アーティストと楽曲名には、できるだけ日本語版wikipediaのページをリンクしておきました)。意外といろいろなことが隠れているものです。

     

  9. Aretha Franklin - Respect (1967)

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    「偉大な歌手」部門堂々の第1位。アメリカの音楽業界の人でこれに異論を挟む人はまずいないでしょう。ただ、数々の名曲・名演のうち、この曲の順位が高いのは、当時の時代状況が関係しているかもしれません。wikipediaの曲解説によると、

    公民権運動フェミニスト運動におけるアンセムとして取り入れられた

    タイトルの「リスペクト=尊敬、敬意」がキーなんですね。純粋な彼女のパフォーマンスの凄さなら、こちらのビデオを見た方がいいかもしれません。私もいろいろビックリしました。(英語版wikipediaにはこのパフォーマンスの記述がありますね)

    Aretha Franklin - (You Make Me Feel Lika) A Natural Woman (1967) ※ Live at the 2015 Kennedy Center Honors

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  10. Ike & Tina Turner - River Deep - Mountain High (1966)

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    「偉大な歌手部門」女性2位。Phil Spectorプロデュースで、楽曲の評価も高く、パフォーマンスの熱も文句なし。しかし、チャートアクションは悪く、実は個人的にもほぼ引っかかるところがない曲なのでした。「なんでかな?」という個人的な疑問のメモも兼ねて紹介します。この曲はカバーも多い(比較的最近のところでセリーヌ・ディオン版とかあります)ので、名曲なのは間違い無いところです。

     

  11. The Drifters - Under the Boardwalk (1964)

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    60年代は黒人音楽も「モータウン」「ファンク」など新しい流れを感じさせるものが多くなっていきますが、50年代から続く音楽スタイルの一つに「ドゥワップ」があります。こちらは50年代に結成され、リードボーカリストを変えつつ(50年代のリードボーカリストBen E. King でした)も、現在もそのレパートリーを歌い続けるグループの60年代の代表曲です。

     

  12. B. B. King - The Thrill Is Gone (1969)

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    スタンド・バイ・ミー」の Ben E. King と名前が似ているので混同されることが多かったり(私も10年以上同じ人だと思っていました)しますが、こちらはブルースギターの名手(「ローリングストーン誌が選ぶ偉大なギタリスト100人」第6位)の60年代のヒット曲です。ちなみに、日本語版wikipedia のアーティスト紹介を見ると3分の1くらいが彼のギターの話なんですが、英語版に至っては愛器 Lucille (guitar) の専用ページまであります。

     

  13. Archie Belle & The Drells - Tighten Up (1968)

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    ここまで、主に「懐かしサウンド」として聴いていただけたと思いますが、こちらは、かなりモダンというか 90年代のクラブでかかっていてもおかしくない感じの曲です(紹介したビデオは一部途切れ気味なところがあります)。現代の音楽への影響という点では、このリストの中で一番重要な曲かもしれません。ちなみに、日本では YMO がカバーしている(Yellow Magic Orchestra - Tighten Up [+ Interview] Soul Train 1980 - YouTube)ので、ご存知の方はご存知でしょう。

     

  14. Jackie Wilson - (Your Love Keeps Lifting Me) Higher and Higher (1967)

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    日本での知名度はそれほどでもないかもしれませんが、「歌って踊れる」の元祖的な人で、その後のミュージシャンへの影響力は絶大なものがあります。彼は自身のパフォーマンススタイルがエルビス・プレスリーに強く影響を受けたものだと公言しており、「黒いエルビス」とも呼ばれていたのですが、エルビス・プレスリーがこの件についてコメントを求めらた時、「じゃあ、僕は白いジャッキー・ウィルソンだね」と男前なコメントを残したことが知られています。

     

  15. Ray Charles - I Can't Stop Lovin' You (1962)

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    「偉大な歌手部門」男性第1位。この曲は実はカバーなのですが、この人が歌うとほぼどんな曲でも「レイ・チャールズ」の曲となり、誰がその曲をやっても彼のパフォーマンス以上のものにはならない、という不思議な魔力を持った人、というのが私の印象です。

     

  16. Percy Sledge - When a Man Loves a Woman (1966)

    youtu.be (Official)

    こちらも映画、ドラマ、CMなどでよく使われるお馴染みの曲で、イギリスで1986年にCMで使われた時は、発売当初の順位(全英4位)を上回った(全英2位)とのこと。カバーも Michael Bolton 版が 1991年に全米1位となり、さらにグラミー賞も獲得しています。

     

  17. Otis Redding - (Sittin' On) The Dock of the Bay (1968)

    youtu.be (Label Official)

    こちらも問答無用の名曲なので知名度は高いと思いますが、彼が歩んだ道(モントレー・ポップ・フェスティバルへの参加と反響)や、この曲が彼の死後発表され No.1ヒットとなったことはあまり知られていないかもしれません。

     

  18. The Impressions - People Get Ready (1965)

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    The Impressions の曲というより、曲を書いてリードボーカルをとったカーティス・メイフィールドの曲と言った方がいいかもしれません。歌詞をみると「死」もしくは「運命」がテーマの曲のように読めるのですが、こちらも「People Get Ready = みんな準備をしている」というタイトルが公民権運動と結びつき、広く知られるようになります。作曲者本人は

    I must have been in a very deep mood of that type of religious inspiration when I wrote that song.

    と宗教的な意味合いが強い旨のコメントを残しています。この曲をそこまで強く社会運動と結びつけて欲しくないようなニュアンスを感じますが、人々の日々の信仰が社会に対するその人の行動と結びつき、信仰を歌った曲がその支えとなっていたのだとしたら、それは曲を作った人の本望と言えるのではないでしょうか。 

     

  19. Sam Cooke - Change Is Gonna Come (1964)

    youtu.be (Official)

     「People Get Ready=みんな準備をしている」「何の?」の答えの一つがこの曲になるのでしょう。サム・クックゴスペルシンガーでもありましたが、wikipediaの曲解説を見れば分かる通り、この曲は自身の体験から生み出された、社会的メッセージの強いものとなっています。多くの人が名曲として取り上げ、評価も非常に高い曲ですが、私は次の曲の方が好きだったりします。

    Sam Cooke - Wonderful World (1960)

    youtu.be (Official)

    こちらの歌詞は「世の中にはわからない/知らないことも多いけど、僕は君のことが好きだっていうことはわかっているし、君が僕を好きかどうかも知っている。世界は素晴らしいよね。」という感じですね。「Change Is Gonna Come」も「Wonderful World」も非常に簡単な単語で綴られているので、歌詞もぜひ読んでみていただきたいと思います。

     

  20. Louis Armstrong - What a Wonderful World (1967)

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    さて、ここまで何人もの大物アーティストを紹介してきましたが、こちらはその中でも一番の大物と言えるかもしれません。ルイ・アームストロングは第2次世界大戦前から活動していたジャズミュージシャンで、ビリー・ホリディが少女時代に聴いて強く影響を受けたという逸話も持つ、ある意味伝説的人物です。「ローリングストーン誌が選ぶ〜」には出てきませんが、それはこれらがエルビス・プレスリーのデビュー50周年を記念した企画で、これ以降の音楽を主な対象としているためでしょうね(100 Greatest Artists – Rolling Stone は「In 2004 — 50 years after Elvis Presley walked into Sun Studios and cut “That’s All Right”」という文章で始まります)。ちなみに、歌手というよりトランペッターです。

    「What a Wonderful World」の歌詞も非常に簡単な単語で構成されており、「今、目の前にあり、見え、聞こえるものの素晴らしさ」を歌ったものです。単純なことを改めて歌うことで、逆になぜ改めてそれを認める必要があるのかを考えさせられることになるわけですが、wikipediaの曲解説を見れば分かるように明確に「反戦」をテーマに書かれた曲なのです。この曲もまた映画(「Good Morning, Vietnam」)で使用され、リバイバルヒットを記録します。

 

60年代R&B/Soulの名曲の特徴は、カバーや映画・ドラマの挿入歌などで、何度も「Revival」する=「よみがえる」点にあると言えるかもしれません。

1960年代ロックの記事では、60年代ロックを「ポップさ=快/不快」と「新しさ」の軸で見ていましたが、R&B/Soulは「ポップさ」と「情(何らかの熱さ)」という軸で見ることができるかもしれません。(R&B/Soulの「情」=hotとすると、Rockの「新しさ」=coolなのかもしれない、というのは余談ですが)

その「情」の部分を生み出し、共感させるものがこの時代の背景には確実に存在していたと思いますが、時代状況が変わっても「よみがえる」名曲たちは、その背景を切り離しても人に伝わるhotなものを「音楽」として持っていたのだと思います。

 

長々と書いてきましたが、最後までお付き合いいただけた方はお疲れ様でした (^^。

最後に Spotify のプレイリストを置いておきます。